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吼える月
第38章 艶宴
 
「は!? 虚勢か、こら! それともお前、その状態で俺達に勝とうとでも思っているのか!? ぎゃはははは。その枷……ヨンガ様お手製の特殊なものなんだよ。朱雀の力と緋陵が秘匿している鉄で作られた枷だ。お前はどうすることもできず、絶望の最中で俺達にいたぶられるだけよ」

「――だから?」

 絶望など慣れている。
 さらには死線をくぐり抜けて、祖国の危機にすら背を向け、今ここにいる。
 今さら怖いものなどなにもない。

「だからだからと、うるせぇんだよ!」

 キレたカルアが匕首をシバの顔に突き立てようとした瞬間――。

「カルア、引きなさい!」

 ヤグの鞭がカルアの身体に巻き付き、彼女の身体を引き寄せたが、間に合わなかった。
 壁が崩れる音がして、シバが鎖をぶらさげた拳をカルアの腹に叩きつけたのだった。

 カルアはふたつ折りになって崩れ落ちた。

「カルア!? そんな……朱雀の力が込められた枷を……」

「……朱雀は怒っているのだろう。他国の盟友の祠官と武神将を蔑ろにした。たかだか、人間の女如きが」

「こいつ……」

 鞭が生き物のようにシバを襲う。
 だがシバはその鞭を巻き付かせた腕を、ぐいと引っ張った。

 ヤグが焦った顔をして渾身の力を込めるが、シバに引き寄せられる。

「……オレは、サクとは違う。甘い情などもっていない」

 サクは……生きているとシバは感じていた。

 共に武神将の血を引く、神獣の力を持つ者同士だ。
 日頃感じていた共鳴というべき特殊な気配は感じられる。
 
 あれだけの深手を負って生きているのはさすがというべきなのだろう。
 ……ただその命の力は、限りなく弱々しい。

 サクの命に危険が迫っていることは感じ取れた。

 そして神獣の共鳴を頼りにするのなら、テオンも無事だ。
 ただなにやら揺らいで思えるため、穏やかな環境ではないのだろう。
 ユエや動物たちも大丈夫だと直感が告げている。

 生きているからといって安心はできない。
 別檻にしたのはなにか魂胆があるように思えるのだ。
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