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吼える月
第7章 帰還
「サク――っ、やっぱりここにいたのね!!」
ユウナと同じ顔の造作なものの、その身形は質素で慎ましやかだった。
艶やかな黒髪は両側に三つ編みにされ、年頃の少女らしく耳には耳飾りが下がっている。
「もしこの街にサクが隠れているとしたら、昔からいつもここだもの」
少女はユウナに目を向けることなく、その輝く黒い瞳にただサクだけを映し、一心に破顔してサクに抱きついた。
興奮に上気した顔には、女としての艶めいたものがちらちらと覗いている。
「俺がまるで昔から成長してねぇみたいに言うなよ、ユマ」
抱きつかれることを嫌がりもせず、逆にそれこそがふたりの挨拶とでもいうように慣れきった顔で少女……ユマを小突くサク。
抱擁は僅かな時間であったにしろ、サクが柔らかな笑みを浮かべて、他の女とこうして抱き合うことを初めて目の当たりにしたユウナは、かなりの衝撃を受け……心にもやもやとしたものを抱えた。
そんなユウナの陰鬱な眼差しに気づいたのは、ユマの方だった。
「あれ? この人の被り物は……私が以前サクに繕った服ね。サク、この人はええと……?」
ただサラが用意したものを着ているだけで、それがユマのお手製だということすら気づかなかったサクは、ユマにユウナの存在を隠そうと努めた。
「ああ、こいつは……お袋の遠縁の子で、顔に怪我をしてしまって湯治に来ているんだ」
サラによって、あらかじめ用意されていた台詞を滔々と口にする。
「まぁ、怪我! それはお可哀想に。辛かったでしょうね……。サクの家の湯は怪我に効くというから、早く治るといいわね」
ユマは心から哀れんだ眼差しを向けると、ユウナの手をそっと取った。
その黒い瞳からは、今にも涙が零れ落ちそうだった。
「私はユマ、この黒崙の街長の娘なの。サクより四つ下の今年十五歳よ。なにか困ったことがあったら私に言ってね。なにか力になりたいわ。お名前はなんていうの?」
「な、名前!? ええと……」
「サクに聞いていないわ。なんでそんなに焦っているの?」
「い、いや焦ってなど……」
「ユナ」
慌てるサクに代わり、ユウナが堅い声で答えた。