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吼える月
第7章 帰還
 

「ユナちゃんって言うの? ふふふ、似たような名前で親近感が湧くわ。これから仲良くしてね。何歳なの?」

「……十六」

「まぁ、だったら私よりひとつ年上なのね。だけど……この口調でもいい? 私、ユマちゃんと仲良くなりたいから」


 ユウナは少し逡巡を見せた後、こくりと頷いた。


 嬉しいとはにかんで笑う彼女は、勝気な姫として育ったユウナとは違い、どこか物静かな雰囲気を持つ素朴な少女だった。

 人なつっこい笑顔が、ユウナの警戒心を少しずつ解かせていくが、サクの懐にすっと入れることに、ユウナからの親近感が強まらない。


「ユマは俺の妹みたいなもんで、昔から家族ぐるみの交流があるんだ」


 サクはユウナに、敵ではないとにこやかに説明するのだが、


「妹……」


 悲しげに俯きながら、震える手で自分自身の服をきゅっと握りしめるユマの様子を見れば、ユマはサクに恋情を抱いていることは一目瞭然なことだった。

 ユウナは、サクが玄武殿の内部だけでも、かなり侍女達から騒がれていることは知っていた。サクが通り過ぎる度、用があって声をかける度、真っ赤な顔で蕩けたようにサクを見つめる女達は多かった。

 だが彼女達は、同時にリュカに対してもそうであり、サク個人に熱を上げているわけではなく、名声と美しく強いという外貌だけで騒いでいるのだろうと思って、ユウナは遠くから複雑なため息をついていたものだった。


 だがユマの表情はそれとは違う。

 兄に対するような親愛な情でも、思春期特有の憧憬でもなく、ひとりの女として健気なほどに真剣にサクを愛して、諦めたくないという女の情念をもユウナは感じ取った。



「……サク、私……いつまでも待っているから」

「ユマ、その話は……」

「待ってる」


 それは切とした声音で。

 強い語気の割には、震えたようなか細い声だった。
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