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吼える月
第7章 帰還
ユウナがいる手前、サクはそのまま口を噤(つぐ)んで目をそらした。
サクにとってユマは、可愛い妹なのは間違いない。
触れあえば心穏やかにはなるが、彼女をどうしても女としては見られない。抱きたいとも思えない。どんなに周囲がせっつこうと、結婚などまるで考えられない。
それは何度も根気よくユマに伝えて諦めさせようとしたが、ユマはサクが受け入れるまで諦めないらしい。泣きそうな顔で訴えてくる。
ユマのサクへの想いは、サクのユウナへの想いのように、簡単に断ち切れるようなものではなかったのだ。
そうした恋の辛さを思えばこそ、サクは強気に出られない。なによりその顔はユウナと同じものだったから、どうしてもユウナを求める彼の心が、ユウナから想われていると錯覚を起こしたがっていた。
ユウナに選ばれなかったという、傷ついた心を癒やしたかった。
だがそう思えば、純粋に恋慕してくれるユマを、ユウナの代替品とみなしてしまうことに、男として最低だと自己嫌悪に陥る。
そこでユマに、ついついいつも通りに接することで、話そのものをなかったことにさせようと画策しているのだが、それもうまくはいかない。
ユマもまた、ユウナを諦めきれない女々しい自分の犠牲になっている。
すべては、すっきりと自分がユウナを諦めればいいことなのに、どうしてもそれが出来ない。
ユウナのことを考えないようにしていても、ユマを見る度に、ユウナの声はもっと甘やかだとか、もう少し頬はふっくらとしていて、目はきらきらしてて、笑った顔や怒った時の唇の尖り具合がもっと可愛くて……など、どうしても比較してしまう自分がいる。
正直サクは、ユウナにはユマとの色恋沙汰については知られたくなかった。
ユウナと同じ顔のユマを諦めさせられない時点で、自分がいかにユウナに固執しているのか知られるのが恥ずかしく、ユマに男としての愛があるのではと疑われたくもなかったのだ。
だから願う。
どうか今――、
ユウナが、ユマとサクとの関係を邪推しないでくれるようにと。
いつもの鈍感さで、この件はさらりと透過してくれるようにと。
そうでなければ、残された日々が辛すぎる――。