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吼える月
第7章 帰還
 

 
 ユウナは気づいていた。


 サクに出ていた結婚話、相手はこの子なのだろうと。


 サクの意向ひとつで、ふたりは夫婦になれるだろう。

 サクに、ユマほどの異性愛がなくとも、サクが心許せる唯一の女性なのは変わらない。少なくとも、結婚話が進行していると周囲から思われるほどの親密さは、ふたりの間にはあるのだ。


 そう思えば。


 ……いずれ、サクが選ぶのは――

 自分ではない自分と同じ顔。


 
 心が……軋む。 


 サクの世界から、自分は弾かれたように思えて仕方が無かった。

 だがそれをサクが選ぶのなら、祝福しないといけない。



「……ユナ?」


 何度目かのサクからの問いかけで、ユウナは自分が"ユナ"と名乗ったことを思い出した。


「気分が悪いのです……いや、悪いのか?」


 ユウナはぶんぶんと頭を横に振る。

 そして、ぼそっと呟いた。


「……お似合いよ。あたしが言うのもなんだけど」

「――っ!? あのな、俺とユナは別に……」


 焦って弁明をしようとするサクに、遮るようにユマが陽気な声を出した。
  

「ねぇ、ユナはどこから来たの?」


 突然手を引かれて、ユマが無邪気に尋ねてくる。

 それはサクに否定されたくない、乙女心から出た所作だった。


「ど、どこ……っ!?」


 裏返った声を出したのは、ユウナにユマとの誤解を解かぬ前に、想定外の質問をされたサクだった。

 武芸や護衛に関係あれば臨機応変に対処できるのに、それ以外で頭が働かない部分があるのが、サクが周りから"馬鹿"と呼ばれるゆえんである。



「……女の都、緋陵から」


 だがユウナは片言なりにも、きちんと嘘八百を並べて応じている。

 サクよりも度胸は上だ。


「まぁ! サラ様と同じね! ああ、だから遠縁なのね。ねぇ、今度緋陵のお話を聞かせてちょうだい!」


 ユマにより、絵空事の話はどんどんあさっての方向に進んでいく。
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