この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第7章 帰還
ユウナは気づいていた。
サクに出ていた結婚話、相手はこの子なのだろうと。
サクの意向ひとつで、ふたりは夫婦になれるだろう。
サクに、ユマほどの異性愛がなくとも、サクが心許せる唯一の女性なのは変わらない。少なくとも、結婚話が進行していると周囲から思われるほどの親密さは、ふたりの間にはあるのだ。
そう思えば。
……いずれ、サクが選ぶのは――
自分ではない自分と同じ顔。
心が……軋む。
サクの世界から、自分は弾かれたように思えて仕方が無かった。
だがそれをサクが選ぶのなら、祝福しないといけない。
「……ユナ?」
何度目かのサクからの問いかけで、ユウナは自分が"ユナ"と名乗ったことを思い出した。
「気分が悪いのです……いや、悪いのか?」
ユウナはぶんぶんと頭を横に振る。
そして、ぼそっと呟いた。
「……お似合いよ。あたしが言うのもなんだけど」
「――っ!? あのな、俺とユナは別に……」
焦って弁明をしようとするサクに、遮るようにユマが陽気な声を出した。
「ねぇ、ユナはどこから来たの?」
突然手を引かれて、ユマが無邪気に尋ねてくる。
それはサクに否定されたくない、乙女心から出た所作だった。
「ど、どこ……っ!?」
裏返った声を出したのは、ユウナにユマとの誤解を解かぬ前に、想定外の質問をされたサクだった。
武芸や護衛に関係あれば臨機応変に対処できるのに、それ以外で頭が働かない部分があるのが、サクが周りから"馬鹿"と呼ばれるゆえんである。
「……女の都、緋陵から」
だがユウナは片言なりにも、きちんと嘘八百を並べて応じている。
サクよりも度胸は上だ。
「まぁ! サラ様と同じね! ああ、だから遠縁なのね。ねぇ、今度緋陵のお話を聞かせてちょうだい!」
ユマにより、絵空事の話はどんどんあさっての方向に進んでいく。