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吼える月
第8章 覚悟
 
「おじさん、サクに重い荷物運んで貰っていたじゃない!! 昔から可愛がって饅頭をいつもサクにあげていたじゃないっ! どうしてそんなに掌返すような無慈悲なことをいうの!?」


「無慈悲だと!? 真実がどうであれ、サクが黒崙に来たせいで、俺達は窮地に置かれた。そのサクを庇って、街と共に滅びろというのか、お前は! そっちの方がよほど不条理で、無慈悲だ!!」


 饅頭屋の主人の声に、多くの人々が追従する。


「自分達可愛さに、サクに無実の罪を被せるなんてそんなの人間じゃないわ、鬼よっ!! それにサクは嘘をつく人間じゃないこと、この街の皆なら十分にわかっているばずよ!! 不条理なことを言っているのは誰か、そんなこと皆にだってわかるでしょう!? そこまで心は凍っていないでしょう!?」


 リュカを責めるユマの声に黙り込む者、ユマに抵抗する者……場はふたつに大きく割れたが、サクを助けようと声を上げるものはいない。


 それだけに、サクに危険を持ち込んだ責任を求める声は大きくて、荒々しいものだった。


 ……興奮じみた悪意は、瞬く間に伝播する。感染菌のように。

 サクに味方しているのは、華奢な体を持つユマただひとり。

 
「それにハンは、サクがありえないといったものを見て聞いているんだぞ? 黒陵の……いや倭陵最強の武神将の言うことは信じられないと!?」


 別の男が、ここぞとばかりにユマを攻め立てる。


「そ、それは……」


 また違う男が声を上げる。


「サクは言い淀んでいたじゃないか。"光輝く者"を連れて、近衛兵に喧嘩売ったんだろう!? それを説明できないサクのために、どうして俺らが犠牲にならないといけないんだ!?」


「サクには、言えない理由があるのよ!」


「だったらまずその理由とやらを、説明して貰おうじゃないか!」

「サク、ユウナ姫をどこに隠した」

「この街に連れ込んでいるのか!?」



「サク!」

「サク!」
 
「サク!」


 皆の目がサクに向かう。
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