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吼える月
第8章 覚悟
サクが言えばいいことだ。
ユウナの髪の色が変わったのだと。
光輝く色になってしまったのだと。
だがサクにはどうしても言えなかった。
黒陵で愛される姫。
どんな理由があろうとも、魔に穢れた存在だと思われることが。
……不吉な存在だと思われてしまうことが。
ずっとサクがユウナに寄り添えられれば、サクの生涯でユウナを醜聞から護ってやれる。
だがサクは、消えゆかねばならない身。
自分の代わりに託そうとした父親が、リュカの命を受けて……尚かつ腕まで犠牲にして、この場での即断を食い止めてくれているのに、これからのユウナを任せられる状況ではなく。
それに――。
ハンの目は……あまりにも厳しすぎた。
それは血の繋がりを思わせない、警備兵の司令官として、サクという人間のただの上官として、裁くような鋭い眼差しだった。
私情を挟んでいる目ではなかった。
ハン自らの目で見たもの、耳で聞いたものは、幻だでたらめだと否定し続けたサクにとって、揺るがないハンは、誰よりも恐ろしく手強い相手となったのだ。
……孤立無援。
自分の考えが甘かった。
先回りしてハンを取り込んだリュカの奸計の方が上だった。