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吼える月
第3章 回想 ~予兆~
「昔は"父上~"って可愛かったのに、今じゃ"親父"。誰に似たんだろうな、その口の悪いふてぶてしいトコ」
「親父だよっ!!」
びしりと人差し指を突きつけ、サクが怒鳴る。
「ハン様。この度は武闘会、優勝おめでとうございます」
リュカが礼儀正しく頭を垂らして挨拶をすれば、ハンは片手を上げる。
「あんがとよ。お前もこんなとこに閉じ籠もってねぇで、見にくればよかったのに」
「僕は……いいんです。少しでも色々な知識を得て、黒陵国のお役に立ちたいですし。平穏に暮らしていられる今があるのは、あなた方のおかげです」
儚げにリュカは笑う。
8年前――。
揺籃にて三人が助けた少年がリュカだった。
あの後一度は別れたものの、数ヶ月後に彼は、単身で黒陵の仕官志願に黒陵国の中枢でありユウナが住まう玄武殿を訪れた。
当然の如く門前払いを食らったところを、偶然に通りかかったユウナとサクが見つけたのだった。
――恩返しをしたいんだ。本当に僕は嬉しかったから。僕に、人間の優しさを教えてくれて、本当にありがとう。
真摯な顔だった。
その表情を見ただけで、ふたりはぐっとくるものを感じた。
偶然見つけて偶然助けただけなのに。
今まで助けた人間は多くいるけれど、こんなところにまで来て恩返しをしようとする者はなく。その行方すらわからずじまいなのだ。
――僕には還る場所はない。だから僕は、優しい君達に。その君達を育てたこの国のために、救われたこの命を捧げたいよ。
玄武殿に仕官するためには然るべき筋からの身元保証と、最低限の教養や体の鍛練がなされていなければならない。
そのどれもがなされておらず、栄養失調で痩せ細った孤児のリュカを後押ししたのが、ユウナとサクから泣きつかれたハンだった。
――ハン、あたしとサクの"お友達"を、また助けてあげて。
――父上、俺……リュカと仲良くなりたいよ。