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吼える月
第3章 回想 ~予兆~
 
 仕方が無く、まずは警護兵の見習いの見習いのそのまた見習いという、とにかくもその場で思いついたような任務を与えて、サクに最低限の基礎体力作りから生活の面倒を見させ、リュカの背中の烙印を徹底的に隠させた。

 そしてまたユウナは、部屋を訪れる識者との勉強の際に、密やかにリュカを呼び……そこには勉強嫌いのサクまで引き摺られて、三人で勉強した。

 リュカは虐待の傷によって、ハンの力を持ってしても足の引き摺りが残ったために、ハン率いる武官になることはできない。

 だが代わりに、知略にて国を護る文官になろうと、早くからその才覚を徐々に発揮し始めた。


 やがて――。


 美少女と見間違うほど見目麗しかったせいもあり、ユウナの父の目にとまったリュカは、警備兵舎ではなく屋敷の離れに住まうこと、まだ見習いだが将来有望な次期文官候補として仕官することを許された。

 さらにはユウナとサクの親友という公の立場も得て、玄武殿を白昼堂々と歩けるほどにまでなったが、足のこともあり彼は、あまり人前に出たがらない。

 空いた時間をユウナやサクと共に外を走り回るよりも、書庫で読書をする方が好きらしく、いつもユウナとサクが書庫に来ては、リュカを太陽の元に連れ出している。


 武闘術に長けたサクと、知性に溢れたリュカ。

 正反対な美貌の幼なじみに挟まれながら、祠官の娘として何不自由なく美しく育ちながら、愛くるしい無邪気さで誰をも魅了するユウナ。

 この三人は互いを認め合い、笑いあい、心を許しあってずっと一緒に育ってきたのだ。
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