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吼える月
第8章 覚悟
妖しげな銀に染まった長い髪を翻し、怒りにも似た激情にて喝破するユウナの勇姿に、民衆はざわめきを逡巡に変える。
それが真実というのなら、姫と姫を悪しき者より護ったサクを売るのは、国に対する反逆でもある。
ならば――。
あとはもう、正義心か保身かの二者択一となる。
各々が宿す良心の問題だった。
彼らの中で、溢れかえる不安と猜疑心で見て見ぬふりをしていた"なにが真実"かは、ユウナの毅然とした訴えにより白昼の元に晒され、そのことの真偽性を問う声をあげる者はいなかった。
ユウナが、リュカによって抉られた傷に、粗塩を塗りたくって見せたおかげで、サクに対する不信感は瞬く間に消えたのだ。
いまだなぜハンと意見が食い違うのかという不可解な謎は残るものの、真剣なユウナの犠牲をもってして、鮮やかな程に民衆の心に燻ったサクへの嫌疑は晴れたのだ。
民衆は、目で見えぬものよりも、目で見えるものを信じたのだ。
しかし、それでは黒崙は滅ぶ――。
人々の目がハンに向く。
最強の武神将は、リュカの裏切りを知りながら、どう動くのか。
それにより黒崙の命運も変わる。
ハンがサクを護る側につき、黒崙を護るのであれば……黒崙が生存出来る可能性は僅かに残る。だが、以降はリュカに狙われ、安穏とは暮らせない。
ハンがサクを捕える側に動くのであれば、サクと彼らの良心を犠牲にすることで、黒崙と共に彼らの命は長らえるのだ。