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吼える月
第8章 覚悟
「ハンは……どうするんだ?」
「やはり、リュカ様の命令に従うのか?」
ざわめく中、沈黙を貫いていたハンは動く。
「……リュカに命を下された時から、俺の決心は変わらねぇ」
サクは苦しげな顔を俯かせ、ユウナはただじっとハンを見つめる。
自分を鋭く見つめてくるハンの目を恐れもせずに。
「俺はサクと姫さんを逃がしたい。たとえ狂った風景を目にしても、なにが真実かどうか見抜けぬほど、この心の目は曇っていねぇつもりだ」
サクの顔がばっと上がり、ユウナの口もとが弧を描く。
そして遠く離れた場所で、きゃあきゃあ喜んで飛び上がる……サラの姿。
彼女もまた、密やかにハンに目で制されながら、黙ってことのなりゆきを見守っていたのだった。
「ただ、姫さんやサクが語る真実と俺が目で見たものが違うとならば、これはただの俺の私情と言われても仕方がねぇ。俺がリュカに刃向かえば、リュカは見せしめにすぐにでも黒崙を滅ぼしに来るだろう。
たとえ俺がサクや姫さんを連れて他に逃げ込んでも、リュカは必ず黒崙に攻め込む。俺が武神将かどうか、サクと姫さんが黒崙にいるかどうかはもはや関係なく、俺がリュカに忠誠を誓うか否かを試されているんだ。
その個人の問題に黒崙を巻き込みたくはねぇ。俺がなんとか出来たのは、"その日"を5日に引き延ばすことだけだった」
ハンは、失った片手に視線を向けてから、ゆっくりと民衆を見渡して言った。
「すまねぇ、皆。
俺は……リュカに弓を引き、サクと姫さんを護る側につく。
サクの父親として、玄武の武神将として、そしてひとりの人間として。
謀反のすべてをサクのせいにして、卑怯な脅しをかけてどこまでも姫さんとサクを追いつめようとする、そんな非情な奴に従うつもりはねぇ!」
それはユウナ達の言葉を全面的に信用しているという、迷いない眼差しだった。