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吼える月
第8章 覚悟
 

「お、おや……親父……親父、親父っ!!」


 中腰のサクはハンの足にしがみついて、感激に泣いた。

 そんなサクの頭を、ハンは微かに笑いながらわしゃわしゃと撫でる。

 その変わらぬ暖かな手に、サクは込み上げてくるものを隠せなかった。


「ハン、ありがとう!!」


 ユウナが泣きながらハンに抱きつこうとすれば、サクは鼻を啜りながらユウナの手を引き、自分の胸に掻き入れた。


「いいじゃねぇかこれくらい。本当に……お前、変わらねぇな。紛れもねぇ、俺の息子だよ」

「放っておけよ。なんか悔しいんだよ……」



 続きを街長が口にする。


「皆のもの。ここに集まって貰ったのは、ハンの願いにより、皆のものの心のうちを吐き出させる場所を設けたかったからだ。

ここからは私からの命令でもない。ましてやハンの命令でもない。

今、皆のものはなにが真実でなにが現実なのか、その目で見てその耳で聞いたはずだ。その上で動いて貰いたいのだ。

街長としてではなく、ただの私個人の意見として。私はサクを人身御供で差し出してまで、黒崙を存続させたくはない。

街は、皆が協力すればいつでもどこでも復興できる。だがサクという人間の命は、失ったらもう元には戻らない。私は心にそむいてまで、非道な人間として生きたくはないのだ。だから私はハンと共に動く」


「街長……」

 ハンは街長の言葉は、想定外とでも言うように、目を細めた。


「なにもあんたまで……。あんたは皆を導かねば……」


「いや。……姫の決死の言葉に、私の覚悟は決まった。私もここに残る。

だが街長としては、そんな意見ではいけない。街の民を護らねばならないのが使命。だとすればわたしに出来ることは、皆に……ここから避難することを勧告するのみ。……5日の間に」


 場がざわめいた。


「ここから東に、小さな村がある。丁度人手が欲しいと、村長に手紙を貰っていたところだ。この黒崙の団結力があれば、瞬く間にこの黒崙を凌ぐ大きな街となろう」
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