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吼える月
第8章 覚悟
「はいはい~、皆さん。どいてどいて~」
そんな時、サラが使用人を伴い、両手で沢山の金品を抱えてきた。
その意図にいち早く気づいたのは、嬉しそうに笑うハンだった。
「……ははは、さすがはよく出来た、俺の可愛い嫁さんだ」
「ふふふ。よかったわ、持って来ておいて。ハンがサクを売ろうと言い出すのなら、これをすべてあんたに投げつけるところだったのよ」
サラは、地面に拡げた高価そうな物品を前に、皆に言った。
「これはウチにある金目のものすべてです。売れば少しは金の足しにはなるでしょう。これをすべて皆様に差し上げます。今まで私達家族がお世話となり、そしてご迷惑をおかけした僅かばかりの感謝とお詫びの品です」
深々とお辞儀をして。
「どうか黒崙でのように、いつまでも笑ってお暮らし下さいませ。私達は皆様とここで暮らせて、本当に幸せでした」
決別の言葉を――。
「お袋っ!! そんな……俺のために、そんな――っ!!」
「サク。親はあんたを見捨てない。言ったでしょう、あんたが縁を切りたがっても、血の繋がりは永遠。断ち切らせはしない。絶対、あんたを生延びさせてあげるから」
「だけど、だけど、だけど!! リュカに刃向かえば親父が……っ」
「対策くらい、ハンなら考えているでしょう。それに最強の武神将が負けると思う? このひとの片腕代わりに私がいるのに? 文無しになっても、このひとの体力があれば……ほそぼそとでも生きていけるわ。
なぁにサク、私達が死んでしまいそうな顔してるのよ。あんた達が逃げ切れるように、食い止めるだけよ、死にはしないわ! ねぇ、ハン」
「ああ。俺だってまだ可愛い嫁さんとイチャコラしてぇし?」
「ふふふ……やだっ。こんな人前で」
「いいだろう? 俺が死ぬ時は、お前が不足している時だ。今俺……死にそうなんだよ、サラ」
熱い抱擁。熱い口づけ。
民衆はただ唖然。
「あああ……っ、ちょっと……今ここですんなよ。なぁっ!」
「あ……サク。ハンとサラをそこの……奥の部屋に」
「ありがと街長! 姫様、手伝ってくれ。動け……ったら」
サクとユウナは真っ赤になりながら、絡み合って動かない夫妻を動かす側となり、民衆の前から消えた。
……夫妻が顔を見合わせ、ほくそ笑んでいるのに気づかずして。