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吼える月
第8章 覚悟
――お黙りなさいっ!
登場からして、畏怖すべき声音と存在感で場を鎮めたユウナ。
器が違う、とユマは思った。
自分と姫はまるで似てもいないと。
――ユマは、ユウナ姫の縁者か? まるで双子のようだぞ。
最初に、姫とユマの顔形が酷似していると言ったのは誰だったのか、ユマはもう思い出すことは出来ない。
よくハンやサクと共に揺籃などに遊びに行くらしいユウナを、直接見かけたことがある者達が、次々にユマと姫は似ている、いや似すぎていて本人のようだと口にしたものだから、ユマはユウナには会わぬまま、その気になってしまっていたのだった。
だからサクがユウナに懸想しているという周知の事実がありながらも、サクにこのまま接触を続けて女らしさを見せ続けてさえいれば、必ずサクは振り向いてくれると思い込んでいたのだ。
サクはいつも、戸惑うようにして自分を見るから。
時折、情熱的な顔を向けてくるから。
他の女に向けるような冷たさはなく、優しく笑うから。
……自分の奥にある姫の面影ではなく、いつかきっとユマという女を見つめてくれると、信じて――。
姫とリュカの婚礼が決定した時、誰もが彼女の背中を押して、応援した。未来の武神将と街長の娘との婚礼が実現すれば、黒崙としての名誉だと。
何度もサクにふられたが、時間が解決してくれると思った。
サラや親を引き込み、未来のサクの妻としての花嫁修業も積んでいた。
いつかサクが、本当の幸せを気づいてくれた時のために。
そう――。
自分だけがサクを幸福にする自信があったから。