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吼える月
第8章 覚悟
 

 姫と従僕なんて結ばれるわけもない。周囲がサクにその夢を断ち切らせなかったのは、ハンという姫と関わり深い存在があったからだ。ハンがサクを溺愛すればこそ、皆ハンと共にからかって遊んでいただけのこと。


 "サク、今日は姫と両想いになれたか?"

 "姫との婚礼は、いつだ?"



 だから――。

 実現しそうな錯覚に、サクが勝手に囚われただけのこと。


 姫の護衛や警備隊長の肩書きはあるといえども、臣下は所詮臣下。しかもサクが祠官の政に関わるならまだしも、腕が強いだけの、勉学もあまり身につけていないただの武官が、黒陵を総べる次期祠官になれるはずもない。


 サクに相応しいのは等身大の娘だ。しかも自分は、サク好みの顔をしているならば、サクと自分が結ばれるのは天命とすら思った。


 ……調子に乗りすぎたのは否めない。荒れて元気のないサクに、姫の代わりでいいからと色仕掛けをしたこともある。


――ごめんな。お前は抱けねぇや。


 拒まれても押しまくる自分に難色を示したのは、ハンだ。


――姫さんと酷似しているのがお前の強みというのなら、それだけではサクはお前に堕ちねぇ。お前は姫さんとは似ていねぇんだからな。


 サクすら動揺しているのに、ハンだけが姫と似ていないという。


――ま、なにが幸せかは……サクが決めることだ。俺も含め、お前も外野だ。勝手な幸福論掲げてサクを追いつめることだけはせんでくれ。
 


 自分の動きがサクにとっては妨げになると言われて、正直悲しかった。

 ハンに、自分は認められていない気がして。

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