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吼える月
第8章 覚悟
 

 サクを誰よりも愛して、理解しているのは自分だけ。

 自分は愛するサクのために、どんなことでもする覚悟は出来ていた。


 だから、街の民の全員を敵にしてたサクの前に、飛び出したのだ。

 愛する男を護りたいという、恋するがゆえの切実さと、少しだけ……サクに恩を売ろうという邪心もあった。


 だが自分は、日頃仲の良いはずの民に説得が出来ず、声を張り上げてもひとの心を動かすことは出来なかった。ただわめいていただけだった。


 そしてユウナが現れた。


――姫様っ!!


 サクの取り乱しよう。

 それを押さえつけて、蒼白な顔で自らの苛酷な体験を口にして、サクを庇おうとする様は、あまりに毅然として気高く。

 そしてユウナの献身により、相手が姫だからというよりは、ひとりの人間の言葉として、皆が耳を傾け心に刻んだことは……ユマに衝撃を与えた。


 ユウナの出現で、サクは自分を見なくなってしまった。

 視界に自分もいるのに、ユウナしか目を向けなかった。


 サクだけではない。

 誰もがユウナだけを認め、ユウナだけを受け入れていた。


 ……ユマなど、元からこの世に存在しない亡霊のように、影に追いやられ、傍観者に徹することを強いられた。


 いつでも優しかったサクの中に、姫は居ても自分は居なかった。

 それが現実――。


 ユウナが辛い目にあったのだろうことはユマでもわかる。
 
 だがユウナの境遇に同情する以上に、ユウナがそうした体験をもって、ますますサクを縛り付けているように思えて仕方が無かった。


 ならば。

 自分も辛い目に合えば。


 サクの気を引くことができるのだろうか。


 自分は姫になれないのなら。

 せめてサクに気を引けるだけの哀れな女になれば。


 そう――。

 誰からも哀れまれ、無条件でサクに庇護される弱い女になれば。



 ユマの心に、どす黒いものが渦巻いていた。
 

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