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吼える月
第8章 覚悟
サクとユウナによって別部屋に入った瞬間、ハンはサラに向けていた扇情的な表情を悲痛さ漂う真摯なものへとがらりと変え、突如その場に座り片腕の拳を床につけて、ユウナの前で頭を垂らした。
「――ユウナ姫。ふたつ、貴方様に謝罪したい」
それはいまだかつてない、従者たるハンから姫への謙遜した態度。
直前まで、サラとの熱い場面を見せつけていたというのに、一体どんな心境の変化なのかと、ユウナは怪訝な面持ちでハンを見下ろした。
「ひとつ――。
遠方に仕事とはいえ、玄武の武神将の名を戴きながら、祠官と姫の一大事に傍に駆け付けられず、お守り出来ず!! 今までなにも知らぬがまま、のうのうと帰ってきてしまったこと、本当に……本当にすまなかった」
「ハン……」
ハンの口調には、やりきれないというような、忸怩たる強い思いが込められていた。
「そしてふたつ――。
街の民を平和的に移動させるためとはいえ、サクを護るために!! 姫にとって言いたくはない……辛いことを民衆の前で言わせてしまい、本当にすまなかった……」
早く謝りたいがために、そしてユウナをこれ以上さらし者にしないがために。長丁場になりそうなあの場から別室に移動"させた"のだと、ユウナが気づく前に、サラもまた目を潤ませながら、ハンの横にて床に座って両手をついた。
「姫様。その身を犠牲にして、我が息子をお救い頂き、まことに……まことにありがとうございました!!」