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吼える月
第3章 回想 ~予兆~
ユウナとサクがリュカを助けたのは成り行きだったとしても、そこに恩義を感じていまだ思慕する情をわかればこそ、ユウナに報われぬ恋心を抱くサクとて、リュカを恋敵とみなして苛つきながらも、憎むことが出来ない。
サクも穏やかで優しいリュカが好きなのである。口には出さないが。
恋と友情に板挟みになり、だからサクはいつも悩むのである。
だがいつも通り、彼に妙案が出るはずはなく、ひたすらじとりとリュカに懐くユウナを見ていることしか出来なくなって、もう数年。
それをハンがせっついて笑いの玩具と、幾度なってきたものか。
三人の関係を微笑ましく思い、ついつい茶々を入れて引っかき回したくなるハンは、リュカに対して一抹の不安を抱えていた。
頭のいいリュカ。
忠誠心を見せるリュカ。
しかしその背中にある烙印のことは、三人にも語らない。
もしも烙印が公に知られてしまえば、どんな扱いになるのか。
リュカを傍に置くようになった祠官は気づいているのだろうか。
もしも祠官が気づいて断罪を口にするのなら、ハンはなんとしてでも思いとどまらせようと思う。特例中の特例である恩赦にせよと。
リュカにはサクのようなずば抜けた運動能力はないが、大人顔負けの知性がある。
間違いなく、このふたりは未来に活躍する逸材。
このふたりに、未来の黒陵を託そうと――。
ただ問題は、リュカはどうであれサクにはユウナ以外に興味がない。
だからサクを動かすには――。
「なあに、ハン、あたしの顔をじろじろと」
「ん~。問題は姫さんだよな」
「あたしがなによ?」
黒陵の美姫。
この先、山のように来るだろう縁談の中からでも、生涯の伴侶を見つけてサクの手を離したらどうなるのか。
サクは、この三人はどうなるのか――。