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吼える月
第8章 覚悟
 ユウナは慌ててふたりの前に座り込む。


「サラ……。頭を上げて。ハンも……っ」


 ユウナは涙を流して笑いながら、床につけられている夫妻の手に触れた。


「やめてよ、ふたりとも。あたしはなにもしていないわ。ただ事実を言っただけよ。そんな風にかしこまれてしまったら、あたしこれからどうすればいいの? 

ハンは闇雲にあたしを追いつめることはしない。だから言ったでしょう、その目は曇っていないわねと。ハンは意味があってああいう態度をとっていたのだと、あたしにはわかったから。……ハンは味方だと思えばこそ心強かった。だから謝らないで、ハン」


「え……姫様……わかってたのか? 俺は、俺はまた……敵になるのかと」


 サクは呆然としてぼやく。

「ふふふ、ハンがサクを見捨てるわけはないでしょう?」


 微かに笑い、そしてユウナは顔から笑みを消し、痛ましい表情を作った。 

「ハン。謝るのならあたしの方。あたしがリュカを抑えずに逃げてしまったから、だからハンは片腕を失うことになってしまった。左とはいえ……」


 ユウナはハンの左肩を手で触れる。


「最強の武神将として、今まで幾多の戦績を残した……偉大なるその腕を」


 ユウナもまた、ふたりの前に床に手をつく。


「姫!」

「ユウナ姫!?」

「姫様!!」



「私のせいで息子さんを窮地に陥らせてごめんなさい。サクを苦しませてごめんなさい。

あたしさえ……いなければ。あたしの護衛さえしていなければ。あたしがサクを頼っていなければ。サクは、黒崙で笑っていられたはずなのに。ハンは腕を無くさず、サラも家の財産を投げ出さずにすんだはずだったのに」


 ユウナは深々と頭を下げて、嗚咽を漏らす。


「優しいサクの家族を、巻き込んでしまって本当にごめんなさい。サクを愛する街の民を巻き込んでしまってごめんなさい。あたしが弱すぎてごめんなさい。サクに護られてばかりで、ごめんな……」


 それ以上は、ハンが言わせなかった。


「サク、サラ……ここは目を瞑れよ」


 ハンの胸に、ユウナは引き寄せられていたのだ。

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