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吼える月
第8章 覚悟
ハンの大きな手が、ユウナの頭を撫でる。
「姫さん。あんたは俺の娘みたいなものなんだ。俺はサクが可愛いが、同じくらいにあんたも可愛い。その姫さんを……」
ハンは、銀色に染まった髪を握りしめると、悔し涙を零した。
「美しい……黒髪だったのに……っ!!」
「ハン……」
「辛かったろうな……姫さん。あんたは、幸せになるべき存在だったのに。本当は今日、一番の笑顔を見せて皆から祝福されていたはずなのに!」
「……っ」
ユウナはハンの服を掴んで、泣きじゃくった。
もしかすると、実の父よりもずっと長く近くで見守っていてくれた。
そんなハンという男の存在は、ユウナにとっては育ての父にも等しかった。
臣下のくせに口が悪く、だけど面倒見がよく。からかいながらも遊んでくれたと思えば、サクと共に小さいユウナの尻を平気で叩いて、思いきり叱りとばす。
その"育て方"は、容赦なかったけれど――。
そのハンの片腕がない。
小さかった自分の体をよく摘まみ上げた、あの腕がない――。
それなのにハンは、自分に謝罪する。
なにひとつ悪くないハンが、妻と共に頭を下げる。
欲しいものは謝罪ではない。
同情でもない。
サクのような、温かさだ。
ハンは生きていたという、確固たる証拠だ。
「ハンが生きてて……よかった……っ。ハンもサクも……生きていてくれて、それだけであたし……救われる。この世にはまだ救いがあると……女神ジョウガのご加護があるのだと……信じていられる……」
仕舞い込んでいた感情が流れ出る。
ハンがぎゅっと小さな体を抱きしめた。
サラがユウナの手を握り、サクはユウナの背を撫でる。
「まだ優しい人達はいるのだと……あたしは信じていられる……っ」