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吼える月
第8章 覚悟
ハンがぽんぽんとユウナをあやすように頭を軽く叩く。
「本当は、その場でリュカをぶった斬ってやりたかったよ。だがな、そうなればサクや姫さんの追討を止める者がいなくなり、速やかに攻め込まれる。だから……引き受けざるをえなかった。リュカのいるあの場では」
「親父は……わかっていたのか? まやかしの玄武殿ということに」
ユウナがハンを信じて、実の息子が信じていなかったその事実にショックを受けながら、サクがぼそぼそと聞いた。
「……正直、まやかしだと断言出来る要素はなにもねぇ。俺の目にはいつも通りの玄武殿だった。ただ……玄武殿に入った途端、玄武の力がざわめいたんだ。これ以上ないというほどに」
「玄武の力……か」
その力に触れられるのは祠官と武神将のみ。
祠官は玄武の力に触れることが出来るが、自らの意志で操り使用出来るのはせいぜい結界止まり。
武神将だけがそれを武力に展開することが出来るという。
それは攻撃だけではなく、防御も然り。
さらには神獣玄武は、四神獣で一番防御に厚いと言われているから、危機察知能力も高いのだと、サクは聞いたことがあった。
「その前にもざわめきはあった。多分、祠官が死んだ時なんだろう。俺の中の玄武の力がざわめき、体内の力が弱まった。不吉な予感に囚われ、早く帰ろうとした時……これ以上ない餓鬼が押し寄せたんだ。
警備兵の精鋭隊は数人しか残らねぇほど凄惨な戦いとなり、なんとか凌いで玄武殿に戻れば、リュカから玄武の力を感じるじゃねぇか。祠官になってもいねぇリュカからそれを感じるのはおかしい。して、見せられた祠官の遺体の……胸の陥没見れば自ずと答えが出る」