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吼える月
第8章 覚悟
「リュカから玄武の力が……?」
質問したのはユウナ。
ユウナはリュカが祠官の心臓を口にして、その力を取り入れただろう残酷な事実を知らない。
それを察して、ハンはリュカが玄武の力を移行する儀式を行ったのだろうと曖昧に終え、そして顰めっ面で続きの言葉を紡ぐ。
「そして。リュカの後ろから向けられる……邪悪なる視線と、リュカの髪が……いつも以上に銀色に見えた。
しかも俺に証言してくる奴らの顔が皆……同じ表情なんだよ。ありぇねぇだろ、沢山の人間が一様に同じ表情しているなど。それに目は虚ろで、異様すぎて……玄武の血が騒いだ。警戒しろと」
そこまでの玄武の力を、リュカは知っていたのだろうか。
どんな方法かはわからないけれど、まやかしの玄武殿をハンに見せるだけで、ハンを丸め込めると……本当にそう思っていたのだろうか。
サクはそこが腑に落ちなかった。
「そして近衛兵が、例の出立ちでやってきた。近衛兵とリュカら玄武殿の奴らの証言をあわせて、俺はサクは嵌められたのだと推測した。ありえねぇよ、サクはそんなことはしない。サクが嵌められたと根底にあれば、あとは外野の騒音にしかすぎねぇ。サクと姫さんが生きているかどうかだけが、憂いだった」
「親父……」
思っていた以上に、ハンは自分を信じてくれていたのだと思うと、サクの胸が熱くなる。
目を潤ますサクに、ハンは言った。
「俺はお前の親だ。お前が姫さんと駆け落ちした……だけの話なら、俺は純粋に信じたかも知れねぇ」
……却下。サラと同様に、そこまで自分は周囲から駆け落ちを期待されていたらしい。
「だが祠官を殺して、姫さんを凌辱などお前はしまい。お前は、必ず姫さんを連れて黒崙にいると踏んだ。だとすればあとは黒崙の被害をできるかぎり食い止めることが命題となる。幸い街長も俺の話に乗ってくれて、民を移動しようという話になった」