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吼える月
第9章 代償
「わからないんだよ、本当に。あの時俺は……あのゲイとかいう奴に、遠隔的な力で簡単に四肢を砕かれ、動きを……声すら奪われた挙げ句に、姫様が蹂躙される様を見せられ続けた。気狂いになると思った」
唾棄するように言い捨てるサク。
体が怒りにふるふると震えていた。
「その中で聞こえてきたんだ。男か女か、年寄りか子供かそれすらわからねぇ。けど……藁にも縋る思いだった。神だろうが魔だろうが、関係なかった。この凄惨な場から、姫様を救うことさえ出来るのなら俺は……」
「邪痕を与える神など聞いたことがねぇ。魔……の力は、お前の望み通りに砕けた四肢を修復し、姫さんと共に玄武殿から生延びる力を与えた。
だとしたらサク――。
その力を手に入れる代償に……お前、なにを与える約束をした」
「………っ」
「……まさかお前、命は代償にしていないよな」
答えぬ息子に、ハンの声が震えた。
「サク!! お前、命を捧げたのか!?」
「仕方がねぇだろ。差し出せるものが俺には命しかなかった。そうしなければ姫様を救えなかった。俺の……俺の力では、太刀打ち出来なかったんだよ、だから俺は!!」
「わかっているのか、魔に命を捧げるということは!! お前の肉体が死ぬという単純なことではねぇんだぞ!? 魂まで食らい尽くされ、未来永劫苦しみ続けて、究極には魔になっちまうということだ!!」
「たとえそうでも!! 魔に魂を捧げてでも、俺は姫様を助けたかったんだよ!! 姫様が生きるためなら、この命如き捨ててもいいんだよ、俺は!!」
その悲痛な叫びに、ハンの顔が苦しげに歪む。
「――っ。……ああ、くそっ!!」
ハンは荒々しく、サクの頭を自分の胸に引き寄せた。