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吼える月
第3章 回想 ~予兆~
 

「ああっと、侍女が呼んでるわ。またね、リュカ! サク行くわよっ!」

「姫様っ! だから俺の胸倉掴んで走らないで……ぐえっ」


 触れるものを即座に叩きつけることが出来るくせに、ユウナ相手にはまるでその力を見せないサク。


 惚れた弱み。

 仕官の弱み。


 か弱い姫に引き摺られることを、オトコとして情けないと恥じるならまだしも、あの幸せそうな顔。


「ああ、我が息子ながら、なんと腑抜けなんだ……」


 ハンはため息をついて片手で顔を覆い隠す。


 ハクのぼやきに、くすくすとリュカが笑う。


「サクは腑抜けではありませんよ。腑抜けであればユウナはとうに手放しているはずです。僕にはサクが眩しく、羨ましい。あのふたりはいつも一緒で、ユウナは決してサクを離そうとしませんから」

 その寂しげな顔に横切ったのは、男の情。


「だけど姫さんはお前に会いに来るじゃないか。うちの馬鹿息子が妬くほどに」

「ええ、そして僕が妬くほどに、ユウナはひとりで僕には会いに来ない。会いに来てもいつもいつも顔を上気させて、サクのことを語るんです。彼の偉業も彼の失敗談も、うっとりとした顔で」


「へぇ、お前さん……妬くのかい」

「そりゃあ、男ですからね」


 にっこりと微笑むその顔には、まるで真情を見せない。

 大した少年だとハクは内心舌を巻く。
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