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吼える月
第9章 代償
 

 嗚咽を漏らしたサクに、ハンは目を瞑って天井を仰ぎ見た。


「馬鹿野郎……。人任せにする前に、お前は俺より強くなって姫さんを護ろうとか思わなかったのか!」

「え?」


「いいか、よく聞け、サク。祠官なき今、微かにでもリュカの体内にある祠官の血で、俺はリュカと主従で繋がっている。祠官命令に逆らえば、武神将は死ぬのは古来からの理。

つまり――。

俺がお前の代わりに俺が姫さんを護ろうとしても、俺がリュカに反抗する限り、どちみち俺は死んで、姫さんがひとりになるんだぞ。サラに後を任せたところで、女手で黒陵軍勢と近衛兵から逃げ延びるには無理がある」

「そんな!! お袋だって言ってたじゃないか、親父が死なずに生延びられる策があるんだろう!?」

「ある。だが、それはお前が長く生きてこその強硬策だ」

「え?」


 ハンはため息をついて、頭をがしがしと掻いた。


「俺が武神将である限りリュカに逆らえないのなら、俺はお前に武神将を譲るつもりだった。新たなる武神将は神獣玄武と契約をし、仕える祠官に対する"忠誠の儀"を行わねば、祠官と玄武で結ばれた強い連帯感は生まれねぇ。

リュカが祠官の心臓を食い、祠官の力が一部なりともリュカの体に流れている以上、俺の中の……契約した玄武の血がリュカを主だと思い込む。俺にとって、今のリュカは鬼門で、足枷になる」


 ハンは悔しそうに語り続ける。


「だがそれは、"玄武の祠官"と契約をした武神将である俺だけの話。玄武の祠官と契約をしていねぇお前にとっては、リュカの縛りの影響下にはねぇ。

その上で玄武の力をお前が持つには、リュカが正式な祠官となって新たなる武神将となったお前と儀式をする前に、祠官の血を引く姫さんを緊急的に祠官に見立てて、正式な"忠誠の儀"を行えば、お前達は玄武の加護を得られると。

それを――っ!!」


 ごつん。


 ハンはサクの頭に拳骨を落とした。


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