この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第9章 代償
「……結局殺されるのなら、退路なんかじゃねぇじゃないか。大体、その契約相手がどこにいるのかもわからねぇのに。ま、体の中は間違いないんだろうが。親父も何か感じているんだろう? ……俺はさっぱりだけど」
顔も見えず、あれから一度の接触もない"なにか"。
サクには、異種と馴染んだような感覚も、異物を抱えたような違和感も感じない。
「サク。今はどうであれ、後で失う代償が大きすぎるから、だから契約というのは、安易にするもんじゃねぇんだ。特に人間を餌にしか思ってねぇ魔とは」
「……今更だろ。仕方がない状況だったんだって。」
口元であざけるように笑うサク。
諦観している表情に、ハンはやり場のないため息をついて言った。
「安易にしろ安易ではないにしろ、なされた契約について、簡単に平和的になかったことにすることは、基本……不可能なんだよ」
わざわざ絶望的なことを念を押しながらも、ハンの語気は微妙に歯切れが悪く。
"基本"
それが基本であるのなら、それ以外のものもあるのかと……食いついてくるように撒き餌を散らせたハンの心知らず、サクは別なことを考えていた。
「なぁ、親父。だったら武神将になるのに、そんなまどろっこしい手順踏まずにさ、もっと緊急的なものはねぇのか? ほら、リュカが祠官の心臓を食べることで祠官の……玄武の力を操れたように。武神将だって似たようなもん、あるだろ?」
結局のところ、サクの直感は別の入り口を通ろうとも、ハンの言わんとしているところに辿り着く。
それはハンが鍛えたきた"生存本能"のなせる業なのかもしれない。
ハンは苦笑した。
それは出来れば……避けて通りたい、だが唯一の"生き残れる希望"だったからだ。