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吼える月
第9章 代償
「玄武が入った時点で、既契約は無効にならねぇのか?」
「相克具合だろうな。力の差異がありすぎれば、弱い方が……きっと先住者の方だろうが、契約を破棄することも考えられなくもねぇ。
だが、先住者にそこそこ力と誇りがあれば、代償を受け取るまで意地でも居座る可能性の方が高い。玄武の力に鎮められながら両者が共存する仮調和状態で、玄武の力が弱まるのを虎視眈々と狙う……。
その場合、契約はただの先延ばし状態となり、玄武の力が薄れた時点で強制履行され、お前は即座に命を失うことになる。
お前が生延びるためには、永遠に現役武神将として、玄武の力の加護を留めておけるような、心身共の崇高さを保ち続けてなければならない」
ハンは辛そうに顔を歪ませて言った。
「もしも、玄武が……。断ち切れないお前の姫さんへの想いを"邪"とみなせば、お前は姫さんに懸想する限り、玄武に殺される」
「………」
「だけどまあ、俺もサラを溺愛してあれだけ抱いても無事なんだから、そこんところは大目に見てくれるとは思うけどよ」
「……ここは惚気るところかよ」
サクは面倒臭そうな面持ちとなった。
「危険なのはそれだけじゃねぇ。異例なやり方にて、お前の急遽の契約要請にどれだけ玄武が応えるか、どれだけお前が玄武を使役できるかも問題だ。
言っておくがサク。神獣は誇り高く、そう簡単に扱えない。だからこそ、3日の試練が必要なんだ。それに耐えれば、玄武は主と認めるから」
「……そこを省略して契約をとりつけようとして、しかも先住者がいるとなれば、当然玄武だって面白くねぇよな。
結局どの面からも、危険の厚塗り状態。解決するのは、すべて俺の力量次第ってことか……。確かに、笑顔で推奨できる話ではねぇな」
サクはぼりぼりと頭を掻いた。