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吼える月
第9章 代償


「え?」



「……15年前、"遮煌(しゃこう)"という名で、昨夜の予言の成就を妨げるために、俺達武神将は……倭陵に住まうすべての"光輝く者"の一斉弾圧に乗り出した。未来を脅かす危険な因子を、今からひとつ残らず刈り取るようにとの、皇主から祠官を通しての命令だ」


 ハンは辛そうに顔を歪めている。


「抵抗する者は殺し、従順な者には烙印を押し、重罪人として地下牢に永遠に繋げ……。それを敢行した。肩身狭い思いをして、ほそぼそと隠れ住んでいた集落を襲撃したんだ。


女も子供も老人も、屈強な体格の男達も、神獣の力に敵うわけもなく。

皆泣き叫びながら逃げ惑った。


今でもあの悲鳴が耳にこびりついている。

……俺の、唯一の黒歴史だ」



「親父……」


「だから虐げられていたリュカの背を見た時、その逃亡者だろうと推測した。あの烙印の模様は特殊だからな。

それを見逃し続けたのは、ひとえに……自分勝手な自己満足なだけの贖罪のせいだ。……皮肉なものだ。結局予言が成就してしまうのなら、俺達が襲撃して弾圧したことはまったくの無意味だった。ただ……禍根を残し、ただ後悔するだけの」


「そのことについて、リュカは……?」


「……その後、リュカに言われたよ」


――貴方が武神将であるのなら、10年前の"遮煌(しゃこう)"を忘れてはいないでしょう?
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