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吼える月
第3章 回想 ~予兆~
 

「うちの馬鹿息子を退けて、姫さんを娶りたいとは思わないのか? サクもそうだが祠官は、姫さんを嫁がせるのに身分は関係ないと仰っている。姫さんが愛した男であるのならばと」

 ハンは腕組みをしながら、表情を変えずにいるリュカを見つめる。


「サクも今は護衛とはいえ、武神将ともなれば肩書きにハクがつく。お前だって未来の智将候補だ。しかも祠官のお気に入り。お前達はオンナにも騒がれる、将来の有望株なんだ。反対者はいまい。どうだ?」


 リュカは涼しい面差しのままに答えた。


「僕がユウナの相手に相応しくないのは、貴方が御存知のはず」


 ハンは訝しげに目を細めた。


「貴方が武神将であるのなら、10年前の"遮煌(しゃこう)"を忘れてはいないでしょう?」

「――っ!! お前は……」


 ハンの顔が驚きに満ち、自然と腕組みは解かれる。


「ええ、背中の烙印はその時のものです」


 赤銅色の前髪から覗くのは、煌めきを纏った暗澹とした闇色の瞳。


「僕は、生きていてはいけない者なんです。別に恨んでいるわけではありません。10年前があったからこそ、今の僕がいるのですから」


 それは達観したようにも思える、淡々とした口調で。

 
「ただ……この世は、いつまでも僕には残酷すぎる」


 静かに伏せられた目。

 長い睫毛が微かに震えた。

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