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吼える月
第9章 代償
「俺初めて聞いたぞ、その話」
「これを知るのは代々の祠官と武神将。……そしてリュカも知っていた」
――ねぇハン様、倭陵に伝わる……何でも願いが叶う禁忌の箱。女神ジョウガが4人の祠官に開ける鍵を託したという箱は、本当にあるのでしょうか。
「なんでリュカが……。祠官から聞き出したのか」
「ただあの頃のリュカはまだ仕官していなかった。書庫を漁っていたから、なにか古の文献でも目にしたのかも知れねぇ」
「……で、隠された箱はどこに?」
「そこまではわからねぇ。祠官は知っていたろうが、死んでしまえば真実は闇の中。リュカのことだから、そうした文献は火にくべてしまっているだろう。だが……待てよ。いけすかねぇ白陵のソウマが、そういうことに詳しかったな」
「ソウマって……」
「ああ、白虎の武神将だ。武神将のくせに体を使った仕事をやりたがらねぇ、あの極度の唯美主義かつ自己愛主義野郎だ。
やたらいい頭をひけらかし、星見だのジョウガだの、そんなどうでもいい伝承の知識を俺に得意気に自慢しやがる。武闘大会は棄権ばかりしてるくせ、倭陵の頭を使う大会には必ず出席して優勝する、武術こそすべての武神将の風上にもおけねぇ、軟弱野郎だ」
そうは言いながらも、武力が劣るのはあくまでハンから見ればの話。
武神将になるくらいの武力はある。
「どちらにしろ、ゲイもリュカも……おとなしくはする気はなさそうだな」
「……ああ」
リュカは、この13年の思い出を代償に、ゲイと共にジョウガの箱でなにをしようとしているのか。
サクら親子の、答えの出ない重い沈黙だけが部屋に流れた。