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吼える月
第9章 代償
 



◇◇◇



 厨房――。


 そこでシェンウ邸の女主人自らが作った、大量の皿に乗せた色とりどりの料理を、食堂である隣室の大きな卓に、ユウナがせっせと運んでいた。


 本来この家では、雇っている料理人が食餌を作っているのだが、サラが使用人全て暇を出してしまい、この屋敷にはサラしかいなかった。

 今までサラは、サクやハンの祝い事がある時には馳走を作っていた。

 むしろ結婚前は、大食漢のハンに色々な手料理を振るっており、料理の心得は十分にある。鶏も魚も捌ける、かなり本格的な腕前だ。


 だから料理人がいなくなっても特に困ることなかったが、おかわりの分や街長家族も招待しようとすればゆうに10人分は作る必要があり、それを卓に並べるだけの手が足りなかった。


 そこに湯浴みをすんで銀髪をどう染めたらいいのか聞きに来たユウナが、戦闘状態のように目まぐるしく動くサラを見て、自ら手伝いを申し出たのだった。


 体力自慢の夫と息子はまだ街長宅から帰らず、正直使えるものは使いたい心地のサラであったが、さすがに姫に、体を使う雑務はさせられない。


――サラ。あたし……お手伝いしたいの、少しでも!


 姫の必死さに心動かされ、厨房から動かずに済む手伝いを頼むことにした。


 米の水洗い、皮を剥いた大根を縦に4つに切るだけという、子供でもできる手伝いだったが、ユウナは実に嬉しそうに喜んだ。
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