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吼える月
第9章 代償
その間に、サラは両手に大皿を持って隣室と厨房を往復していたのだが、ふと首を傾げて固まっているユウナが気になり横目で様子を窺ってみた。
ぼそぼそと、ひとりごちている。
――何度も何度も水洗いしてもしても、お米が黄ばんで見えるわ。洗い方が間違っているのかしら? そうだ、真っ白になる洗濯糊を……。
慌てたサラが言う。
――姫様、お米を洗濯したら、食べられなくなっちゃいます! いいんですよ、炊けば白くふっくらになりますから! もう十分です!
そしてまたある時は……。
――大根の縦切りって……切りにくいわね。きっとあたしの気合いが足りないのね、気合い気合い……。……ふぅっ……はっ!!
――姫様! 縦切りというのは、大根を垂直にして"立て"て、飛び跳ねながら上から切ることじゃありません!! 野菜を切るのに気合いは不要です!!
玄武殿育ちのユウナには、街の民の子供ほどの知識はなかった。
そこで仕方が無く、自分がしていた単純作業を頼むことにすれば、今度はみるみると有能さを発揮したのだった。
――さあ、サラ。じゃんじゃん寄越して!
元々、ユウナは温室育ちとはいえども、お転婆なのだ。
部屋に籠ってじっとしているよりも、外で体を動かす方が活き活きとする。だから使用人のようなことをしていることに不服どころか、鬱的な表情が緩和して見えるほど、生彩さが戻りつつあった。