この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第9章 代償
その姿を、我が子のように微笑ましく思いながら、明日には息子と共にもう旅立ってしまうのかと思えば、サラは無性に寂しくなった。
もしもユウナが、リュカではなくサクを伴侶に選んでくれていたら。
そして今日、サクとの婚礼が実行されていたのなら。
どんなに喜ばしいことだったろう。
息子の心からの笑顔を見ることが出来たのなら。
今、息子の嫁として、自分の義娘として。
こうして素直に、無邪気で屈託なく笑うユウナが、家族の一員となってこの家に遊びに来てくれているのなら、どんなによかっただろう――。
"ユマとユウナはそっくりだ"
誰が言い出したことだったのか。
確かに造形は似てはいるが、近くに並んで立てば……その凜とした気高さに開きがある。育った環境の影響は多少あるだろうが、それよりは生来の個性に違いがあるように思えた。
それは内面から生じる差違であり、ふたりの性格をよく知らぬ者達にとっては、同じような外貌としか見えないのかも知れない。
だがユウナには、ユマには持ち得ない……燃えるような激情を内包している。他者を従える直情的な勇ましさがある。論破出来ない強さがある。
まるでハンのような武神将のように。
父である祠官よりも雄々しく――。
ああ、サクは……この姫から逃れられない。
そう思ったのは母の直感。
サクは、この姫を追いかけ求め続けるだろう。
生涯をかけて、この姫だけを――。
直感は……確信へと変わっていった。