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吼える月
第9章 代償
 


 その姿を、我が子のように微笑ましく思いながら、明日には息子と共にもう旅立ってしまうのかと思えば、サラは無性に寂しくなった。


 もしもユウナが、リュカではなくサクを伴侶に選んでくれていたら。

 そして今日、サクとの婚礼が実行されていたのなら。


 どんなに喜ばしいことだったろう。


 息子の心からの笑顔を見ることが出来たのなら。


 今、息子の嫁として、自分の義娘として。

 こうして素直に、無邪気で屈託なく笑うユウナが、家族の一員となってこの家に遊びに来てくれているのなら、どんなによかっただろう――。



 "ユマとユウナはそっくりだ"


 誰が言い出したことだったのか。


 確かに造形は似てはいるが、近くに並んで立てば……その凜とした気高さに開きがある。育った環境の影響は多少あるだろうが、それよりは生来の個性に違いがあるように思えた。


 それは内面から生じる差違であり、ふたりの性格をよく知らぬ者達にとっては、同じような外貌としか見えないのかも知れない。


 だがユウナには、ユマには持ち得ない……燃えるような激情を内包している。他者を従える直情的な勇ましさがある。論破出来ない強さがある。


 まるでハンのような武神将のように。

 父である祠官よりも雄々しく――。


 ああ、サクは……この姫から逃れられない。


 そう思ったのは母の直感。



 サクは、この姫を追いかけ求め続けるだろう。

 生涯をかけて、この姫だけを――。



 直感は……確信へと変わっていった。


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