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吼える月
第9章 代償
傷心で苦しむサクに、姫の代償など必要はなかったのかもしれない。
サクの心は、痛いほど姫に向かってまっすぐだ。
……それはきっと、ユマもわかっただろう。
ユマは健気な子だ。
サクがユウナを想い続けるように、ユマもまたサクに一途で、サクのために内面も磨き上げようと必死でいじらしい。
そうしたユマに絆され、ユウナとそっくりな顔立ちもなにかの縁かもしれないと、それがサクの救いになればと、ユマとの婚礼話を街長と共に進めてはいたけれど、最初からサクは乗り気でなかった。
そして今、こんな事態なら、この縁談話もご破算になるだろう。
聡いユマも、きっと納得してくれるはずだ。
ふたり旅立つのは命がけ。サクは仕官している身、ユマとの幸せな結婚が叶わないのは、致し方がないことなのだと。
それに、あれだけはっきりとサクの想いが示されてしまえば、"いつか振り向いて貰える"という些細な希望も打ち砕かれたかもしれない。
ユウナに庇われたあの時のサクは、ユウナしか見ていなかった。
ユマなど、視界にすら入っていないだろう。
……ユマもまた、サクを護ろうと捨て身で止めに入ったというのに。