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吼える月
第9章 代償
 

 ユマには辛いことだろうが、あれこそがサクの真情。

 他人が踏み込んでも、決して揺るがないサクの心。

 ユウナが愛おしくてたまらないというサクの顔。

 ……たとえ、諦めようとしている恋であろうと、サクの中ではユウナしか見えないという結論が出ているのだ。



 だとしたら――。


 ユウナがリュカに裏切られた現実であるならば。


 それがどんなにユウナにとって耐えがたい苦しみ伴う現実であろうとも、その苦痛の元凶であるリュカと、もう婚礼をすることがないというのであれば。


 ――…息子を選んではくれないだろうか。

 主従関係を抜きにして、ただの女として、サクを愛してはくれないだろうか。


 今はまだ深く抉られた傷は癒えぬかもしれない。だが、遠い未来になったとしても、将来的には……サクを。

 あそこまで姫を溺愛するサクを。

 母親ですら、今までも見たことがなかった……愛しさ募らせる"男"の顔をしたサクを。


 ユウナと共にいるサクを間近で見続けてきたからこそ、ハンだけは……、ユマとの縁談に快い返事をしなかったのだと、今さらながら気づく。


――サクの幸せは……サクだけが感じるものだ。


 ハンはよくそう言っていた。


 ならば――。

 
 一心にユウナを求め続けるサクを……選んで貰えないだろうか。

 ユウナがサクを嫌いではないのなら。


 親馬鹿と言われるかも知れないが、少しでも可能性があるのなら、哀れなサクに希望をもたせてやって貰えないだろうか。


 風呂場で吼えるように泣いていたサク。

 強がって想いを飲み込んでいるサク。


 この先、ふたりで生きるというのなら。

 どうかサクに救いを――。



 ……喉もとまで込み上がっている願いを、サラは口に出来ない。


 サクがユウナに想いを伝えていないのなら。

 伝えたいと思っていないのなら。


 ……まさか街長宅で、サクがあと6日で消えゆく命なのだと、ハンと話しているとは気づかずに――。
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