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吼える月
第9章 代償
中はしんとしている。
やがてユマのか細い了承の声が聞こえた。
「それから控えの間に、"姫に庇われるような、あんな情けないサク"とその父親がいなかったんだけれど、どこに行ったのかわかる!?」
くどいくらいに、"姫に庇われるような、あんな情けないサク"を強調するサラ。
「多分……ハンおじ様が子供達のために建てたあの稽古場かと。そんなことを話して出て行く姿を見ました。あ、私大至急呼んできます! そしておばさまの家に母さんと行きます!」
タイラとの会話を強制終了させたかったかのように、ユマの弾んだ声が聞こえ、それを不服そうに声を上げるタイラの唸り声が聞こえた。
そして――。
マヤはシェンウ邸にて、にこにことおにぎりを作り始めている。
「ねえねえ、この雪だるまのおにぎり、どうかしら~。次はクマさんの顔を作ってみようかしら。それともウサギさんがいい~?」
サラとユマがにぎりめしを5つ作っている間に、1つをまだ仕上げられないマヤ。彼女専用の話し相手についたのは、これまた歪なにぎりめししか作れないユウナだった。
――おばさま、もう少しでサク達は来るようです。なにかお料理のお手伝いを!
ユマにとって、にぎりめしは料理の範疇に入らない。
彼女は、サラから料理を教わり、かなりの腕前だった。
――いいのよ、姫様がお手伝いしてくれたから。
……運び専門だとサラが口にしなかったものだから、ユマは僅かに顔を曇らせる。
ユマは日頃、未来の義母とは懇ろな仲だった。
ユウナにその立場をとって変わられた気がしたのだ。
だがその変化は僅かなもので、誰もユマの心の内を知らず、そしてユマもそれを気づかせないように妙に陽気に振る舞っていた。