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吼える月
第9章 代償
ユウナは家事が出来るユマを羨ましげに見つめていた。
自分はなにも知らない。
おいしい料理の作り方も、誰も教えてくれなかった。
"そういうものは、姫には必要ありません"
だからご飯をひとつにまとめただけのにぎりめしも、いざ自分がやろうとすればどうにぎればいいのかまったくわからず、形は歪だしすぐ崩れる。
お米が悪いのかと思っても、サラとユマのはとても美味しそうだ。マヤのは論外だが……。
自分は世間知らずなんだと、痛感した。
同じ顔を持つのに、ここまで違う。
自分は姫の看板を下ろせば、自活が困難な頼りない存在で。
ユマは、役立たずの自分とは違い、きっとサラのようになんでも出来て、サクの生活を支えられる……いいサクのお嫁さんになれるなと思うと、心の奥がちくりと痛んだ。
それを誤魔化すように、ユウナはマヤだけではなく、10歳、5歳、3歳のユマの弟の相手もした。
相手が子供なら、なにも考えずにこなせられる……。
それは自分が子供のように幼いからなのかもしれないと、苦笑しながら、ユウナは笑顔で、やんちゃな子供の遊び相手となって、部屋を走り始めた。
ユウナのその顔に、サラが……昔遊びにきていたような、溌剌としたものを感じて、嬉しそうに微笑んでいたことに気づいたのは、ユマだけ。
……ユマの陰鬱に翳った顔は、誰も気づかない――。