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吼える月
第3章 回想 ~予兆~
「……なぜ、俺に話した?」
固い口調でハンが問う。
「貴方に……知っていて欲しいと思いまして。祠官をよく知る倭陵最強の武神将であり、僕の命の恩人であり、そしてユウナを守るサクの父である貴方には」
リュカはどこか遠い目をしてハンに尋ねた。
「ねぇハン様、倭陵に伝わる……何でも願いが叶う禁忌の箱。女神ジョウガが4人の祠官に開ける鍵を託したという箱は、本当にあるのでしょうか」
唐突に転換された話題に、ハンの顔が警戒に満ちた。
「……刹那の快楽との代償に、永遠の苦痛をもたらすという禁忌の箱を、お前は開けたいのか」
ハンの眼差しが、咎めるように鋭さを増す。
「お前が書庫で本を読み漁っているのも、ひとりでどこかにふらりと出かけるのも、それに関係があるのか?」
しかしそれにはリュカはなにも答えず、再び話題を戻した。
「……ハン様。ありえないんです。こんなに汚い僕を、綺麗なユウナが好きになることは。友情だけでもありがたいものなんです」
まるでそうでなければならないと言い聞かせているかのように。
かつての汚らしい身形を払拭し、どこまでも清潔な服を着て神々しいほどの美貌をさらしているというのに、それでもリュカは己を汚いと……現在進行形で表現する。
そこに表からは窺い知れなかったリュカの葛藤がある気がして、ハンがその正体を看破しようと目を細めた時、リュカは言った。
「僕は、大好きなふたりが結ばれる未来を心から渇望し、ふたりを祝福したい。僕はユウナと同じくらい、サクが好きだから。だからサクを願うユウナの心に素直に従います」
柔らかな微笑みはいつものものながらも、弱々しく。
「だけど、サク以外の男は僕は認めない」