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吼える月
第9章 代償
作り終えたにぎりめしが50個を超えた頃、ようやくすべての出席者が揃う。
誰もが色取り取りの素晴らしい馳走に舌鼓を打ち、陽気に歓談し、そして酒の席に突入する。
妊婦のマヤも酒を飲みたいと駄々をこねたために、サラはそれを断念させようと、急遽この家での宿泊を提案し、部屋にて私とずっと語らいましょうとにっこり微笑めば、それでようやく彼女は酒瓶から手を離し、子供を寝かしつけにサラと共に部屋に赴いた。
だがサラはすぐに戻ってくる。
――マヤ様、子供を寝かしつけるつもりが、ご自分がお眠りに。お子様方は私が寝かせました。
街長とユマが慣れきったようなため息をつき、ハンは大笑い。
ユマは、ハンと街長と酒を酌み交わすサクの横に当然のように座り、何度も酒を注ぐ。
時折ユマもハンから酒を勧められて、杯に口をつけては仄かに紅潮した顔を見せ、サクにしなだれかかるようになった。
酒が入った場の上、無礼講とはいえ、まるで夫婦のような仲睦まじさ。
ユウナは、黒陵の姫としての公式の場で、酒を少しだけ口に含ませたことがある程度しか酒の経験はない。
酒を注ぐよりも注がれる立場だったユウナには、ユマのような気配りを思いつきもせず、そうしたことを既に知っているユマにただ感心していた。
ユウナはサクに強固に茶を勧められ、ひとりだけ茶を啜っていたのだが、なんだか和気藹々とした場に馴染めずに、疎外感を感じていた。
この場には、黒崙での思い出を共有する仲間達の集う場所であり、無理矢理押し入ったばかりのユウナには、そうした昔語りを共感できない。
それに気づいてサラが説明をしてくれるのだが、説明されねばわからぬ自分の存在は、ますます異質であり"異端者"であるという認識だけを強める結果になってしまった。
たとえ髪を再び黒く染めようと、それは永遠ではなく。
銀髪であるこそが、現実における自分の立場に他ならない。
部外者。
異端者。
既存の場に相反する、決して歓迎されないもの。
真実になれない、まがいもの――。
黒崙においては、ユマこそが必要とされる"真実"なのだろう。