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吼える月
第9章 代償
「しかし、街長。あんた、本当に黒崙に残っていいのか?」
ハンの問いに街長は笑う。
「ああ。ハンがいるんだ、死ぬわけでもないし、私なりに黒崙の運命を見届けたい。滅ぶにしろ、残るにしろ。マヤや子供達は、避難させるよ、明日にでも」
「父さん!?」
ユマは心外だといわんばかりに声を出した。
「私、街長の娘なのよ!? 私だってハンおじさまと闘うわ。おじさまから、子供と一緒に護身術も習っているし」
その決意めいた言葉に、街長は嬉しそうに笑う。
「さすがは、武神将の息子の嫁になる娘!! その心意気、鼻が高い」
途端、酒で賑わっていた場がしんと静まり返る。
「だが、だからこそ……お前は安全な場所にて、サクの帰りを待つんだ。お前は……婿たるサクの子供を身籠もる大切な体なんだからな」
一番に体を固まらせたのは、今まさに杯を口に持って行こうとしていたサクだった。
"婿"
"身籠もる"
あまりに現実感の伴わない、虚飾の言葉。
だが確実に、毒のように体を蝕んでいく――。
じわじわと、嫌な予感に汚染されていく。
この先、聞いてはならないとサクの頭に警鐘が鳴り響いた。
自分だけではない、ユウナにも。
せめてユウナをどこかに移動させよう。
だがサクが動くより早く、街長が切り出してくる。
「サクに頼みがある」
突然はサクの前で、土下座をしたのだ。
「姫といつ戻るかわからぬ長旅になることは承知の上。だからこそ!! 今、娘ユマと仮祝言を挙げてくれまいか」