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吼える月
第9章 代償
 


「父さんっ!!」

「街長!?」


 ユマとともに声を上げたのはハンだった。


「おいおい、サクとユマの結婚は、本人同士の同意がなければ……」

「今宵は無礼講。腹を割って話そう、ハン。今日帰還したばかりのお前さんの案に乗ったのは、お前さんが娘婿の父親になるからだ。黒崙を捨てるしか方法がない事態だったとしても、初めから私が寛容的で、進んで民衆を説得する側に立っていたのは、お前さんが家族だと思えばこそが大きい。

私もまた、お前さんと共に、サクという息子を護ろうとしていたんだ」


 ハンは黙って、街長を見ていた。


「お前さんところはサクしか子供はいまい。あとは流産で命は長らえることはなかった。それは赤子に、武神将の抱える玄武の血に耐えきれぬからだと、その昔お前さんから聞いた」


 サラは流産して泣き崩れた過去を思い出して顔を歪め、ハンは無表情のまま、ああとだけひと言、杯の酒を口に煽る。


「お前さんの血はサクも引いている。だが現実、まだ武神将ではないサクは、例外かもしれない可能性もある」


「まあ、可能性的には」


「だったら……サク。武神将の血を絶やさぬために、今夜……ユマと閨を共にし、その子種をわけてはくれまいか。旅立つ前に、未来の武神将の子供を、私の孫をくれ」

 
「はあああ!?」


 慮外といいたげに大きく目を見開いたサクの手から、酒の入った杯が転げ落ちた。

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