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吼える月
第9章 代償
 

 見上げる空は、既に漆黒――。

 そこには、少し歪に見える赤い満月が浮いている。


 凶々しい予言が示した赤い月は、まだ消えない。


 まるで痛ましい昨夜は、これからも続くのだと嘲笑っているようで、ユウナの体のあちこちが、じくじくと痛み出してきた。


 父親や使用人達を、今日夫になるはずだった男に殺された心の痛み。

 純潔を見知らぬ男に散らされた体の痛み。


 少しでも思いを馳せれば、まるであの凄惨な場面が蘇ったかのように呼吸が思うように出来なくなり、やがて心身が内側からずきずきと痛みだす。


 幻の痛覚だと思うのに、現実の痛みとなる。


 あの月のせいだ――。


 温かいサクの家族のおかげで、あの辛い思い出を乗り越えられるような気がしていたが、あの月の魔力には逆らえない。赤い月光を浴びると、狂い出したくなる。


――苦しめ……ユウナ。



 忌まわしい月を通して、リュカの憎悪を感じてしまう。

 どこに逃げようとも、見張られているかのようで、逃げ延びることは無意味だと笑われているような気がする。


 体が千切れるかのように、激しく痛み出してくる。

 あまりの痛みに涙が出てくる。


 その涙は、赤い月光に照らされて……まるでユウナが流した血のようにも見えた。


 痛い、痛い、痛い……。


――姫様、大丈夫です。



「痛い、痛い、痛い……」




――俺がいますから。



「――…っ」



 ユウナは髪を掻き毟りながら、サクの優しく慰める幻の声に励まされるように、弱音を吐いて悲鳴を上げそうになる唇をぐっと噛んだ。

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