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吼える月
第9章 代償
「だったら、サクとすればいいじゃないですか」
「私ね、女のお友達がいないの」
「……それはご自分はもてると自慢なさっているのですか?」
「あたし……もてないわ。好きだった婚約者にも裏切られるくらいだもの。あたしに魅力あれば……今頃は幸せいっぱいの花嫁よ」
自虐的な笑いに、ユマは言いたい言葉を飲み込んだ。
そしてぽつりぽつりと聞く。
「まだ……リュカ様のことがお好きなんですか?」
ユマは、ユウナの指に嵌めてある指輪を指さした。
「それ……リュカ様とお揃いなんでしょう? 以前、サクがそう教えてくれました。サクもまた……姫様とリュカ様から貰ったという装飾品を外そうとしていない……」
ユウナは苦笑しながら、指輪を手で触れた。
「これはもう体の一部となっていたから、特別な意味はないわ。サクもそうじゃないかしら。……そうだわ、これユマにあげる」
ユウナは、今までひとときも外すことがなかった指輪を引き抜くと、ユマの指に嵌めた。
「ふふふ、あたし達……指の大きさもそっくりなのね。まるで元からユマのものだったかのように、ぴったりで馴染んでいる」
リュカとサクと三人一緒の玄武が彫り込まれた黒水晶。
思い出が残るその指輪をユマに渡すことで、ユウナは、三人で培ってきた過去に決別したのだった。
少し未練に思うのは、自分の心が弱いから。
前を向いて強くなるためには、必要がない――。