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吼える月
第9章 代償
ユウナは、戸惑うユマに正直な心の内を吐露した。
「リュカのことは……正直今はよくわからない。思い出す度に怖くなるから。これ以上傷つきたくなくて、深く考えないようにしているから」
「………」
「リュカとの出会いが、つい最近でより他人に近い存在であればよかったと思うわ。あたしはリュカに、たとえ一方的だったにしても幼なじみという誰よりも近い存在だということに有頂天になりすぎて、リュカのすべてを理解した気でいた。リュカの本心は違う処にあったのに。
……仲がよすぎると、関係を断ち切るのも難しいものね。傷つけられれば傷つけられるほど、……辛くて前に進むのが怖い。逆に過去の思い出に縛られてしまう。……忘れられなくなってしまう……」
「………」
「それでも前に進まなければならない。あたしは多くの人達を巻き込んでしまった。あたしなりに出来ることをしなきゃ。
……あたしね、黒崙の人達が好きよ。ユマも好き。街長もマヤも、貴方の弟達も。サラもハンも……」
「……サクは?」
「大好きよ。彼がいなければ、今のあたしはいない。今のあたしに力をくれたのは、サクだしね」
どこか決意めいた眼差しに、ユマの瞳が細められた。
「あたしなりに出来ることをしたいの。あたしのせいで、黒崙の人達に辛い思いをさせたくない。ユマにもサクにも、ハンやサラにも」
ユウナはユマの手を握って、その目をしっかりと見つめて言った。
「……サクをお願いね。幸せにしてあげてね」
「姫……様……?」
「そして貴方の幸せも祈っている。貴方に出会えて本当によかったわ。貴方なら、サクを託すことができるもの」
そしてユウナは立ち上がり、砂利がついた裾を手で払った。
「さぁて、お散歩お散歩。食べた分は動かなきゃ。ブタさんになってしまうものね」
そう邪気のない笑顔を見せた。
「じゃあユマ。気をつけて帰ってね!」
無理に連れ戻そうともせず、ユウナは手を振り立ち去った。
ひとり残されたユマの顔が変わりゆく。
「なぁに……あれ。……わざとらしい」
憤りと嫉妬により、醜く険しく……ユウナと同じ顔が歪んでいく。