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吼える月
第3章 回想 ~予兆~


 

 寂しげな眼差しにすっと流れたのは非情なまでの冷酷な光。

 そして冷ややかな光は燃えるような炎に変わる。


「サク以外の男が彼女に触れることも、僕は許さない」


 そこにリュカという少年の本質を垣間見たハンは、思わず息を飲む。


 いつも礼儀正しく、穏やかに笑ってばかりいるリュカ。

 誰からも人受けはよく、お人好しなくらいに彼は優しい。


 しかし実のところは違うのかもしれない。

 彼は激情家なのかもしれない。


 彼はいまだその心の内を隠し続け、謎めいた行動をしている。


 微笑みの仮面の内で眠っているのはただの野良猫か、それとも獅子か。


 "生きていてはいけない"リュカを助けた時点で、賽は投げられたのかもしれない。


 彼はこの国にとって、吉か凶か。



――貴方が武神将であるのなら、10年前の"遮煌(しゃこう)"を忘れてはいないでしょう?


 そのリュカが願う、ユウナとサクの未来。


 サク以外の男にリュカが非情になれるというのなら、聞いてみたくなる。



「ではもし、姫さんがお前を相手に選んだら?」



 リュカもまた、"サク以外の男"であるのだから。



「ありえない」

「もしもの話だ」


 リュカの瞳が揺れた。



「……その時は……」



 だが――。

 リュカの口から、そこから先の言葉は紡がれることはなかった。


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