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吼える月
第9章 代償
――……仲がよすぎると、関係を断ち切るのも難しいものね。傷つけられれば傷つけられるほど、……辛くて前に進むのが怖い。逆に過去の思い出に縛られてしまう。……忘れられなくなってしまう……。
「自分の境遇を話して同情しろってこと? だからサクを連れていくのは仕方がないから諦めろって言いたいの?」
――たとえ一方的だったにしても幼なじみという誰よりも近い存在だということに有頂天になりすぎて、リュカのすべてを理解した気でいた。リュカの本心は違う処にあったのに。
「まるで、私と同じだと言わんばかりの口調! 私の辛さは、私だけしかわからないっ! 大体、あのひとが私を邪魔して傷つけている元凶じゃない!」
――リュカとの出会いが、つい最近でより他人に近い存在であればよかったと思うわ。
「思い出の濃さだけが愛じゃない。……ひとりではなにもできないくせに、サクの支えにもなれない無知で非力のくせに、ただひとを従える側の"姫"であるだけのくせに! サクに愛されているという優越感を見せつけるような一方的な上から目線で、私を理解した気にならないでよ。私と一緒にしないで」
ユマは奥歯をぎりぎりと噛みしめた。
――……サクをお願いね。幸せにしてあげてね。
「悔しい……馬鹿にして。あたしがサクに強く拒まれたことを知っているくせに! ……よくも、しゃあしゃあとあんな嫌味を言い捨てていけるものだわ」
ユマは気づかない。
ユウナが激しい寒気にとらわれ、全身の痛みが酷いものになっており、ユマに心配をかけさせまいと早々に立ち去ったことを。
……そして、ユウナも知らない。
「サクは……渡さないわ。
どんな手を使っても……引き留める。
連れて行かせるものですか!」
歩き出したユマが、あらかじめ示し合わせていたタイラを連れて、街の外に出たことに。
……そのすべてを――
残酷なまでに赤い月だけは、じっと見ていた。