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吼える月
第10章 脆弱
 


「サク、多分街の中に既に姫さんはいない。いるなら外だ。街の外には、兵士が5日後に備えてたむろしている。その中でおたずねもののお前がうろうろして見つかってはまずい。

お前は俺と街長とでユマを。姫さんはサラに任せる」


「なにを……っ!?」


 サクの訴えを片手で却下したハンは、サラに向いた。


「いいな、サラ。お前は夜目が利く。まずは玄武殿に続く東に延びる道と、途中にある近衛兵の駐留場付近を調べろ。獣道は後回し。ここらへんに詳しくない姫さんが、道などをよく知るはずはない。いるとしたら、駐留場との間だろう。俺も目立った行動が出来ねぇから、様子を見ながらいく」


「わかったわ」


「人員は必要か? 必要ならば街長宅に話し合い中の……そうだな、ユマに懸想しているタイラあたり……」


「ひとりで結構。猫被っているの疲れるもの。では行ってきます」


 サラは勇猛に家から走って出て行き、街長もユマを探しに出て行く。



「親父、なんで玄武殿!? しかも駐留場って!?」


「手紙には、俺宛てのところで……片腕の代償をなんとかするとあった。考えられることは、姫さんの身をもって……黒崙の追討中止をリュカに訴えるということ。道がわからねば、兵士達に連れて行って貰う方が早い」


「そんな……姫様はリュカによって……それを戻るなど!!」


「そこが姫さんの"覚悟"さ。まだ新たな祠官が任命されていなければ、姫さんはまだ姫としての権威を持つ。言うなれば……祠官代理より上の立場、死んだ祠官に次ぐ……今の黒陵国の頂点さ」


「それは形式上だろ!?」


「ああ、そうだ。だがそれを悟るリュカが手を打たないとは考えられねぇ。姫さんもそれくらいわかっているはずだ。だから嘆願の代償として姫さんは……」


 ハンは辛そうに顔を歪ませる。



「リュカの傀儡となることを申し出るだろう」

「はあああ!?」

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