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吼える月
第10章 脆弱
「リュカとしても、姫さんが手元にあれば姫さんの名で事を進めやすくはなる。しかもリュカは許嫁だった男、他国からも周囲からも不審がられねぇだろう」
「そんな……」
「後は姫さんの交渉力次第だ。……傀儡がだめなら、体を捧げる覚悟も……あるいは」
「――許さねぇよ、そんなことっ!!」
走り出そうとしたサクを、ハンは一喝した。
「サクっ!! 姫さんの覚悟を無駄にさせる気か!?」
「見つかっても、すべて力でねじ伏せる!!」
「この馬鹿息子!! 戦い始めれば、ここぞとばかりに待機中の兵士達がここに雪崩込み、あっと言う間にここは戦場になるぞ!? お前の敵は、俺が連れ帰った警備兵の精鋭と……そして、輝硬石の武具を纏った近衛兵。その他、お前のために死んだというシュウらが幻で現れたら、お前奴らを敵として戦えるか!?」
「……っ!!」
「そして、片腕で繋いだ意味なく俺はリュカの命に背いて死に、お前は最長契約期日の……6日いや、あと5日で死に!! 黒崙の民はお前を匿った罪で急遽避難前に殺され、サラも死に!! すべてはリュカの思う壷となる。その中で姫さんを護るのは誰がいる!」
声を荒げてサクを恫喝しながらも、ハンは冷静だった。
その上で、サクの髪を手で鷲掴んで後ろに引っ張るという荒技に出て、冷ややかな瞳でサクを射る。
「……姫さんを救い、お前も死なず、周りの"無駄死に"を食い止められる可能性が高い方法はなんだ? 考えろ、サク。目先のことに囚われず、今一番の得策を考えてみろ!!」
「――っ」
「生き抜くために必要なものはなんだ!?
頭を冷やせっ、サク!!」
すると――。
「な……おい、サク?」
突如サクが唸り声を発して、ハンの手ごと……壁に激突したのだった。
「……ってぇ……」
ぶつけた頭を抱えて、サクはその場に座り込んだ。
だらだらと、サクの額から血が滴り落ちている。
それを手で確かめたサクは、
「く、くく、くくく……あはははははっ」
突然肩を揺すって笑い始めたのだった。