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吼える月
第10章 脆弱
「……お前、馬鹿を通り越して狂っちまったか?」
「狂ってなどねぇよ!! 沸騰した血の気を抜いて、頭を冷やしてんだよ。こんな血のせいで俺……暴走しようとしてたのかと思えば、なんだか可笑しくてさ」
「頭を冷やせとは言ったが、別に血を流して貧血になれとは言ってねぇんだがな……。馬鹿なりの極論か。しかもこんな血って……俺の血でもあるのに」
そんなハンのぼやきを聞いていないかのように、サクは大きく頭をぶんぶんと横に振ると、大きなため息をついた。
「……目ぇ覚めた。やっぱあんなじゃじゃ馬な姫様、親父には任せておけねぇわ。……俺がこの先もきっちり面倒見る。面倒見れるほどに強くなる。
二度も……捨てられてたまるか。……ずっと、俺の手元に置いて護る」
その声音は、堅いなりともどこか朗らかにも思えるもので。
「ならば……サク」
「ああ、今は姫様の探索を……お袋に任せる。お袋はただの女じゃねぇからな。なにせ……誉れある緋陵の朱雀の武神将の地位を妹に譲って、親父に嫁いできた女だ。……これ以上の頼もしい味方はいねぇよ」
「そういうことだ。まあ、黒崙に移り住んで"可愛い女"になるために、昔ほどの鍛錬を積んでねぇから、全盛期ほどの力はねぇだろうが。だが、そこいらの男よりはよっぽど力になる。ここは……サラに任せろ」
「ああ。そして俺は、俺にしか出来ない……最善なことをする」
サクはゆっくりと精悍な顔を上げた。
「……親父。ユマを見つけ次第、儀式をしてくれ。ユマは俺の責任だ。俺も探して、ユマの安全を確認したい」
それはハンに否とは言わせぬほどの、強い意志に覆われた真摯な顔だった。