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吼える月
第10章 脆弱
「俺に必要なのは強さだ。俺は……自惚れすぎていたんだ。護衛役だけは、絶対姫様は俺を選ぶ。絶対姫様に捨てられることはねぇ、姫様の護衛役だけはずっと俺だけのものだと」
「………」
「現実は厳しいな。俺、この1年……ずっとその現実から顔を背けてきた。最後の絆とばかりに、頼り切っていた護衛役を切られたら……俺、取り柄ねぇんだよ。唯一の強さがなければ、それを姫様に認められなければ、姫様の傍にいられる理由がねぇんだよ。
だから……一刻も早く強くなりてぇんだ。姫様に必要とされる強い男になって、情けない護衛役を返上して、生まれ変わりたい。
……もう、こんな事態は許さねぇ。俺は」
サクの眼差しが変わった――。
そう思いながら、ハンは目を細めた。
「――強い武神将になる。
なにがなんでも生き抜いて、俺が姫様を護る」
その目は、その瞳の奥は――。
飽くなき力への欲に滾っていた。
「二度までも、姫様に護らせねぇ。護るのはこの俺だ。言われるがまま、簡単に離れてやるものか。簡単に……断ち切らせてたまるものか」
代償とはいえど、ハンにユウナを託してひとり先に逝こうとしていたあの諦観さはなく、さらにはハンをも危険に巻き込まぬ最善策として、武神将になろうと過酷な試練を決意した時の、あのサクの面差しとも違う。
「姫様が離したくねぇって思うほど、名実共に強くなってやる」
それは確かに、ユマとの関係を邪推された挙げ句、不当に解雇されたことに対しての悲憤から端を発したものではあろう。
それが断ち切れぬユウナへの想いと絡まり、さらに押さえ込んで消そうとしていた愛の炎を大きく揺らめかせ、自身の変貌を決意させるに至らせたのだ。強さを求めさせるに至らせたのだ。
最強の武神将ですらユウナを護らせたくない、ユウナを護るのは自分だけだという……独占欲は、力への渇望へと昇華したのだ。